一度決まった養育費や婚姻費用は変更できる?
1 「事情の変更」があれば額の変更が認められる!
調停などで養育費や婚姻費用を定めた後に、養育費や婚姻費用の額の変更を求めることはできるのでしょうか。
一度養育費や婚姻費用を決めても、その後に事情の変更があれば、増額または減額が認められます。
ただし、事情の変更があったとしても、合意の当時、当事者が予測できたものであれば、変更は認められず、当事者に予測不能だったことが必要です。
(東京高裁平成19年11月9日決定など)
ですので、事情変更が認められるためには、基本的に、調停成立時当初に予測できなかったことが必要です。
ただし、例えば定年退職などにより収入が減少した場合は、調停成立時に予測はできますが、調停成立の際は、通常定年退職後の収入を考慮しては養育費などを定めません。
ですので、この場合は、事前に予測ができたとしても、事情の変更が認められる可能性は十分にあります。
2 どのような場合に「事情の変更」があったといえる?
次に、どのような場合に「事情の変更」が認められるのでしょうか。
大きく分ければ、
➀当事者の収入の増減
➁子の成長
➂再婚などによる家族構成の変動
➃その他
の4つに分けられます。
順に見ていきましょう。
➀当事者の収入の増減
増額または減額の調停で最も多いのがこれです。
権利者(養育費や婚姻費用を受け取る方)または義務者(養育費や婚姻費用を支払う方)の収入の変動があれば、事情の変更が認められます。
最も典型例は、当事者が退職した、勤務先が倒産した、転職したなどの場合です。
ただし、多少の残業代の変更や定時昇給、業績悪化などは、あらかじめ織り込み済みとされることが多いので、
ある程度大きな額の変動が必要になります。
➁子の成長
算定表は、子が15歳未満か15歳以上かで分けていますので、子の1人が15歳以上になった場合は、事情変更とされることが多いでしょう。
また、子が私立高校や私立大学に進学した場合など、場合によっては事情変更が認められる場合があります。
➂再婚などによる家族構成の変動
義務者が再婚し、子どもが生まれるなどして新たな扶養家族ができた場合は、減額が認められる可能性があります。
ただし、調停成立時に既に再婚の予定があり、調停成立から短期間で再婚した場合などは、予測できたものとして事情変更が認められないこともあります。
また、権利者が再婚し、子が再婚相手から扶養を受けている場合などは、養育費が減額される可能性があります。
もっとも、再婚しただけで直ちに再婚相手が子に対する扶養義務を負うわけではありません。
再婚相手と子が養子縁組している場合は、再婚相手に扶養義務が生じ、一般的には再婚相手の方が実親に優先して扶養義務を負うとされています。
(再婚相手に十分な収入がない場合は、実親も扶養義務を負います。)
他方、再婚相手が養子縁組まではしていない場合は、原則通り養育費は従前どおり支払うことになりますが、
実質的に扶養している場合などは、実親の負担義務が軽くされることもあります。
➃その他
その他の事例は様々ですが、例えば、合意が当初から不当に高額(または不当に低額)であった場合などです。
この場合は、事情に変更がないので原則として変更は認められませんが、公平の見地から、事情によっては変更が認められることもあり得ます。
3 算定表の改訂は「事情の変更」にあたる?
2019年12月に、裁判所が作成している養育費・婚姻費用の算定表が改訂されました。
どの収入の人も、幅に差はあるものの、概ね養育費・婚姻費用は増額となっています。
しかし、算定表の改訂前に養育費や婚姻費用を調停等で定めた人もたくさんおられると思います。
その場合、算定表の改訂が「事情の変更」にあたるとして、増額は認められるのでしょうか。
この点について、裁判所が作成した新算定表の解説によると、算定表の改訂はこの「事情の変更」にはあたらないとされています。
ですので、算定表が改訂されたというだけで、養育費や婚姻費用の増額が認められるわけではありません。
しかし、上記のような事情の変更があれば、増額の調停を申し立てることはひとつの選択肢になってきます。
事情の変更があれば、新たな養育費や婚姻費用は新算定表によることになりますので、大幅な増額の可能性があります。
認められやすいのは、子が15歳になったときでしょう。
その他にも収入の増減があった場合も考えられます。通常であれば、事情の変更とみられない程度の収入の増減であっても、新算定表により額が大きく変わることを理由に、認められる可能性は十分にあります。
4 まとめ
以上のとおり、様々な事情の変更により、養育費や婚姻費用の増額または減額が認められます。
事情の変更があったか否かは、専門的な判断も必要になりますので、ぜひ当事務所までお問合せ下さい。