不貞をした相手から婚姻費用を請求されたら?
離婚の前段階として、別居がなされた場合、通常、収入が多い方が少ない方に対して、「婚姻費用」を支払わなければなりません。
婚姻費用とは、簡単にいえば、相手方の生活費(+子どもがいる場合は養育費)です。
では、婚姻関係の破綻の原因を作った相手(これを「有責配偶者」といいます。)から婚姻費用を請求されたら、支払わなければならないのでしょうか。
こんな事例を考えて下さい。
妻が別の男と不倫した。妻は夫と離婚して相手の男と一緒になるといって別居した。
妻は、収入がないか、あっても夫よりも相当少ない。
そして、別居した後、夫に婚姻費用として月10万円の請求してきた。
(話を単純化するため、子はいないものとします。)
この場合、夫から妻に対して慰謝料請求が認められることはいいとして、妻から夫に対して婚姻費用の請求は認められるのでしょうか。
例えば、慰謝料として150万円が認められたとしても、離婚するまでの間、毎月婚姻費用として月10万円支払わなければならないとしたら、
15ヶ月で結局慰謝料と同額になってしまい、夫はまさに「ふんだりけったり」の状態です。
これに対しては、婚姻費用の請求が認められないか、減額されるのが一般的です。
東京家裁平成20年7月31日審判は、妻が不貞行為を行い、相手の男性と同居していた事案で、婚姻費用の請求が権利の濫用として許されませんでした。
大阪高裁平成20年9月18日決定なども、妻が男性とラブホテルから出てくるところを夫が目撃し、妻はラブホテルに宿泊しただけで不貞行為はしていないと主張していましたが、妻からの婚姻費用の請求は認められませんでした。
このように、不貞行為を行った方が相手に婚姻費用を請求するのが、有責配偶者からの婚姻費用請求として典型例ですが、どこまでいったら「有責配偶者」として認められるのでしょうか。
相手が無断で家を出て別居した、という場合は、夫婦の同居義務違反があるものの、一般的にこれだけで有責配偶者とされることは少ないでしょう。
夫婦間で、婚姻関係が破綻する原因は、様々な要因が複雑に絡み合っていることが多いので、不貞行為や暴力など、明白な場合を除けば、一方だけに責任があるとされるケースは多くないように思われます。
もっとも、相手が有責配偶者であっても、子どもも相手と一緒に同居している場合は、子どもの養育費に相当する婚姻費用分の請求は認められます。
これは、子どもには何の責任もないことから、当然の結論かと思われます。